「発注の量は、長年の勘で決めている」「難しいクレームは、結局あの人に代わってもらう」。小さな会社ほど、仕事が特定の誰かに張り付いています。本人が休めば止まり、辞めれば消える。分かってはいても、マニュアルを作る時間はない——多くの現場が、この状態のまま日々を回しています。

今日お伝えしたいのは、「AIで作業を速くする」話ではありません。AIを、属人化した業務を標準化するための道具として使う、という発想の転換です。

AIに教えられる形にすること自体が、標準化

AIに仕事を手伝わせるには、指示文(プロンプト)を書く必要があります。「いい感じにやって」では動かないので、目的、手順、判断基準、やってはいけないことを、言葉にして渡すことになります。

ここで気づきます。この「AIに教えられるレベルまで言葉にする」作業は、マニュアル作りそのものだ、と。

従来の発想では、標準化とAI導入は別の仕事でした。まずマニュアルを整備して、余裕ができたらAIも——と考えると、たいていどちらも進みません。順番を逆にしてみます。「この仕事をAIに手伝わせる」を目標に置くと、業務を言葉にする作業に、具体的なゴールと締め切りが生まれます。そして書き上がった指示文は、AIへの指示であると同時に、人が読んでも分かる手順書になっています。一石二鳥というより、もともと同じ一つの作業なのです。

図1: 従来はベテランの頭の中にあった手順と判断を、AIに教えられる言葉にすると指示文がそのまま手順書になり、本人不在でも業務の8割が回るという発想の転換の図

属人化の中身を3つに仕分ける

とはいえ、すべての属人化がAIで解けるわけではありません。「あの人にしかできない」の中身を分解すると、おおむね3種類に分かれます。

属人化の中身 AIでの標準化
知識(覚えている) 商品の由来、過去のクレームの経緯、書類の書き方 ◎ 書き出せば型にできる
判断(さじ加減) 発注量の決め方、値引きの線引き、返信の言い回し ○ 基準を言葉にできれば型にできる
関係性(あの人だから) 常連客との信頼、生産者との長年の付き合い × 型にできない。人が担い続ける

道の駅や直売所で言えば、「出荷者ごとの納品書の処理のしかた」は知識の属人化で、書き出してしまえば誰でも回せます。「雨の週末にどの商品の発注を何割減らすか」は判断の属人化で、本人が何を見て決めているかを聞き出せれば、かなりの部分が型になります。一方、「あの生産者は、あの人の頼みだから朝採れを回してくれる」は関係性の属人化で、ここはAIの出番ではありません。

この仕分けが大事なのは、型にできないもの(関係性)まで標準化しようとして挫折する現場が多いからです。逆に言えば、知識と判断だけでも外に出せれば、本人が不在でも業務の大部分は止まらなくなります。

3ステップの進め方。「書いてもらう」のではなく「聞き出す」

進め方は3ステップです。

まず、聞き出す。ここが最大の分かれ目です。ベテランに「マニュアルを書いてください」と頼んではいけません。書く時間がないからこそ属人化しているのであって、頼んだ時点で止まります。代わりに、別の人が10〜20分だけインタビューして、メモや録音をとります。「この仕事、最初に何をしますか」「迷うのはどんなときですか」「何を見て決めていますか」。書くのは無理でも、話すだけなら忙しい人でも付き合えます。

次に、型に落とす。インタビューのメモや文字起こしをAIに渡し、「この内容を手順書の形に整理してください。話に出ていない工程は勝手に補わず【要確認】と書いてください」と頼みます。ゼロから書けば数時間かかる文書化が、たたき台までなら数分です。しかも【要確認】の箇所は、次に本人へ聞くべき質問リストを兼ねます。

最後に、回して直す。できた手順書や指示文を、本人以外の人が実際に使ってみます。うまくいかない箇所こそ収穫です。そこには、本人も無意識だった判断基準が隠れています。「この場合はどうしていますか」と持ち帰って聞き、型に追記する。この往復を2〜3回まわすと、型は実用レベルに育ちます。

図2: 聞き出す・型に落とす・回して直すの3ステップで属人化した業務を型にする流れ。目指すのは完璧ではなく本人がいなくても8割回る状態

現場でよくある判断ミス

一つ目は、完璧な標準化を目指すことです。ベテランと同じ品質を型に求めると、いつまでも完成しません。目指すのは「本人がいなくても8割は回る」状態です。残りの2割は本人に残してよいし、そのほうが本人の持ち場も守られます。

二つ目は、標準化を「本人の仕事を取り上げる話」にしてしまうことです。属人化の解消は、誰かを悪者にする話ではなく、その人が安心して休める体制の話です。聞き出しの場でも、「あなたのやり方を会社の財産として残したい」と伝わる進め方をしないと、肝心の判断基準は話してもらえません。長年の勘は、その人が現場で積み上げた資産です。敬意を持って言葉にする、が正しい順序だと考えています。

三つ目は、社長や担当者がひとりでAIを使いこなして満足してしまうことです。指示文が自分のスマホの中にしかないなら、それは属人化の解消ではなく、新しい属人化です。作った型は、共有フォルダなど全員が見られる場所に置いて、はじめて標準化と呼べます。

明日やれる一歩

「あの人が一週間休んだら止まる業務」を3つ、紙に書き出してください。そして、それぞれの属人化の中身が「知識・判断・関係性」のどれなのか、印をつけてみてください。知識か判断に印がついた業務が、AIで標準化できる候補です。インタビューはまだ先でかまいません。まず、自社の属人化がどこに潜んでいるかを見えるようにすること。標準化は、そこから始まります。