「この契約書、結局なにが書いてあるのか」。取引先から届いた売買契約書や、道の駅の出店規約、いつの間にか増えていく社内規程。難しい文書の読み解きはAIの得意分野で、要約やチェックを任せたくなる場面は増えています。ただし契約書には、ほかの書類にはない特有の落とし穴があります。読ませる前のチェックリストを整理しておきましょう。
契約書は「自社だけの情報」ではない
うっかり事故の多くは、契約書を「自社の書類」と思い込むところから起きます。契約書に書かれているのは、相手の社名や担当者名、取引条件や金額、そしてお互いの秘密。多くの契約書には秘密保持条項があり、「契約内容を第三者に開示しない」とお互いに約束しています。入力内容が学習に使われる設定のままAIツールへ全文を貼り付ければ、この約束に反する形で相手の情報を外に出してしまうおそれがあります。
6次産業の現場なら、加工品の製造委託契約に原価や配合に関わる情報が含まれていることがあります。観光施設のテナント契約なら、賃料や売上歩合は相手にとっても知られたくない数字です。自社が「うちは構わない」と思っても、相手の分まで判断することはできません。契約書は、相手の機密を預かっている文書なのです。
読ませる前の4点チェックリスト
- 秘密保持条項を確認する。 その契約書自体に「内容を第三者に開示しない」という条項がないかをまず見る
- 社名と金額を伏せる。 「A社」「◯円」に置き換えても、条文の意味の確認は十分できる
- 全文ではなく必要な条文だけ渡す。 聞きたいことは、たいてい1〜2条文に絞られる
- 入力が学習に使われない設定かを確かめる。 ツールの設定画面でデータの扱いを確認してから渡す
社内規程は相手方がいない分、契約書より扱いやすい文書です。ただし賃金規程に載っている個人名や手当の額など、個人情報が混ざっていないかだけは先に確認してください。
「全文まるごと」をやめると、質問もうまくなる
現場でお手伝いをしていて感じるのは、危ないのはAIそのものではなく「全文まるごと貼り付け」という渡し方だ、ということです。伏せる・抜き出すという一手間は、面倒に見えて、実は「自分はこの契約の何を確認したいのか」を絞り込む作業でもあります。「解約の条件だけ知りたい」「自動更新の条文の意味を確かめたい」と絞れれば、渡す範囲は小さくなり、AIの答えも的確になります。機密の線引きと質問の精度は、同じ一手間で両方手に入るのです。
明日やれる一歩
手元の契約書を1通だけ開いて、秘密保持条項があるかどうかを確認してみてください。あるか、ないか、どこまでを禁じているか。それを知っておくだけで、AIに渡してよい範囲の見当がつけやすくなります。線引きさえ決まってしまえば、契約書の読み解きはAIが頼れる相棒になってくれます。